大判例

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福岡高等裁判所 昭和60年(ネ)701号 判決

昭和六〇年(ネ)第一八一号事件被控訴人(以下「第一審原告」という。以下同じ。)亡阿曽末治訴訟承継人

阿曽正文

外二名

昭和六〇年(ネ)第三三九号事件控訴人(以下「第一審原告」という。以下同じ。)

内野春次郎

外七名

昭和六〇年(ネ)第一八一号事件被控訴人亡大串岩吉訴訟承継人

大串義春

外九名

昭和六〇年(ネ)第三三九号事件控訴人

木村ミツ

外六名

昭和六〇年(ネ)第一八一号被控訴人

高祖六次

外七名

昭和六〇年(ネ)第一八二号事件被控訴人(以下「第一審原告」という。以下同じ。)

髙富愼吾

右不在者財産管理人

樋口信弘

昭和六〇年(ネ)第一八一号事件被控訴人

竹永格

外一名

昭和六〇年(ネ)第三三九号事件控訴人

谷村静

外四名

昭和六〇年(ネ)第一八一号事件被控訴人

田渕榮

外四名

昭和六〇年(ネ)第一八二号事件被控訴人

中薗優

昭和六〇年(ネ)第三三九号事件控訴人

亡西田秀夫訴訟承継人

西田静代

外七名

昭和六〇年(ネ)第一八一号事件被控訴人

藤井利行

外一〇名

昭和六〇年(ネ)第一八一号事件被控訴人 昭和六〇年(ネ)第三三九号事件控訴人

松尾茂

昭和六〇年(ネ)第一八一号事件被控訴人

松尾ハツノ

外一〇名

昭和六〇年(ネ)第一八二号事件被控訴人

松永一男

昭和六〇年(ネ)第一八一号事件被控訴人

松山虎一

外六名

昭和六〇年(ネ)第三三九号事件控訴人

伊福保子

外一名

昭和六〇年(ネ)第一八一号事件被控訴人

浦ミセ

外三名

昭和六〇年(ネ)第三三九号事件控訴人

住吉ツタエ

外九名

昭和六〇年(ネ)第一八一号事件被控訴人

竹永ヨシノ

外五名

昭和六〇年(ネ)第三三九号事件控訴人

岳野ミサエ

外二九名

昭和六〇年(ネ)第一八一号事件被控訴人

山手ヨシ子

外三名

昭和六〇年(ネ)第一八一号事件被控訴人 昭和六〇年(ネ)第三三九号事件控訴人

久世シズ子

外二名

昭和六〇年(ネ)第三三九号事件控訴人

小林勝紀

外二名

昭和六〇年(ネ)第一八一号事件被控訴人 昭和六〇年(ネ)第三三九号事件控訴人

畑原松治

昭和六〇年(ネ)第三三九号事件控訴人

松崎寿男

昭和六〇年(ネ)第一八一号事件被控訴人亡松田新一郎訴訟承継人

松田フサ子

外二名

昭和六〇年(ネ)第三三九号事件控訴人

﨑本フサ子

外九名

昭和六〇年(ネ)第一八一号事件被控訴人

伊藤敏明

外一名

昭和六〇年(ネ)第一八一号事件被控訴人 昭和六〇年(ネ)第三三九号事件控訴人

正法地秀夫

外二名

昭和六〇年(ネ)第一八一号事件被控訴人

若林千代人

外六名

第一審原告ら訴訟代理人弁護士

横山茂樹

外四〇名

横山茂樹訴訟復代理人弁護士

松岡肇

外九名

昭和六〇年(ネ)第一八一号、同第一八二号事件訴人

昭和六〇年(ネ)第三三九号事件被控訴人(以下「第一審被告」という。)

日鉄鉱業株式会社

右代表者代表取締役

仲上正信

右訴訟代理人弁護士

中川幹郎

山口定男

関孝友

三浦啓作

松崎隆

主文

一  第一審被告の控訴に基づき、原判決中本判決別紙2第一審原告らに関する部分を次のとおり変更する。

1  第一審被告は、本判決別紙2第一審原告別認容金額一覧表「第一審原告氏名」欄記載の各第一審原告に対し、同表「認容金額」欄の「合計」欄記載の各金員及びこれに対する同表末尾の「遅延損害金起算日」記載の各日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  前項記載の第一審原告らのその余の請求を棄却する。

二  第一審被告の控訴に基づき、原判決中本判決別紙2―2の第一審原告らに関する部分を取り消し、右第一審原告らの請求を棄却する。

三  第一審原告らの控訴を棄却する。

四  訴訟費用は、民訴法一九八条二項の申立てに関するものを除き、第一審被告と第一項記載の第一審原告らとの間に生じた分は、第一、二審を通じこれを三分し、その一を第一審被告の負担とし、その余を右第一審原告らの負担とし、第一審被告と第二項記載の第一審原告らとの間に生じた分は、第一、二審を通じて右第一審原告らの負担とし、第一審被告と第三項記載の第一審原告らとの間に生じた控訴費用は、右第一審原告らの負担とする。

五1  原判決の仮執行の宣言に基づく給付の返還及び損害賠償として、本判決別紙3の「氏名」欄記載の第一審原告らは、第一審被告に対し、それぞれ同別紙の「金額」欄記載の各金員及びこれに対する昭和六〇年三月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原判決の仮執行の宣言に基づく給付の返還及び損害賠償についての第一審被告のその余の申立てを棄却する。

3  右申立てに関する訴訟費用は、第一審被告と第五項1記載の第一審原告らとの間に生じたものは右第一審原告らの負担とし、第一審被告とその余の第一審原告らとの間に生じたものは、第一審被告の負担とする。

六  この判決は、第一項1記載の各金員につき、仮に執行することができる。

凡例

以下のとおり略称する。

第一次事件=本件昭和五四年(ワ)第一七二号事件

第二次事件=本件昭和五五年(ワ)第一一七号事件

第三次事件=本件昭和五六年(ワ)第八二号事件

第四次事件=本件昭和五七年(ワ)第五号事件

死亡従業員=本判決当事者目録中の第一次事件第一審原告番号五ないし八、一一、一四、一八、一九、二一、二二、二七、三一、三二番、第二次事件第一審原告番号三、四、七番及び第四次事件第一審原告番号二番の本件各提訴後死亡した元第一審原告並びに右目録中の第一次事件第一審原告番号三三ないし四五番及び第二次事件第一審原告番号九、一〇番の各第一審原告の被相続人

遺族原告=右死亡従業員の相続人で本件第一審原告である者

第一審原告ら元従業員=第一審被告に元雇用されていた者で生存中の各第一審原告及び右死亡従業員の全員

本件各坑=①鹿町鉱西坑、②同鉱東坑、③同鉱本ヶ浦坑、④同鉱南坑、⑤同鉱小佐々坑、⑥矢岳鉱矢岳坑、⑦神田鉱神田坑、⑧御橋鉱一、二坑、⑨柚木事務所柚木坑、⑩伊王島鉱業所伊王島坑、の合計一〇坑

他粉じん職歴=本件各坑以外における職歴

けい特法=けい肺及び外傷性せき髄障害に関する特別保護法(昭和三〇年七月二九日法律第九一号)

けい臨措法=けい肺及び外傷性せき髄障害の療養等に関する臨時措置法(昭和三三年五月七日法律第一四三号)

旧じん肺法=じん肺法(昭和三五年三月三一日法律第三〇号)

改正じん肺法=労働安全衛生法及びじん肺法の一部を改正する法律(昭和五二年七月一日法律第七六号)によって改正されたじん肺法

鉱警則=鉱業警察規則(昭和四年一二月一六日商工省令第二一号)

炭則=石炭鉱山保安規則(昭和二四年八月一二日通商産業省令第三四号)

労災法=労働者災害補償保険法(昭和二二年四月七日法律第五〇号)

厚生年金法=厚生年金保険法(昭和二九年五月一九日法律第一一五号)

原判決Ⅰ3表八行目=原判決Ⅰ―3(各枚目の末尾欄外の記入の符号)枚目表八行目

事実

第一  当事者の求めた裁判

〔昭和六〇年(ネ)第三三九号事件について〕

一  控訴の趣旨

1  原判決中第一審原告ら(本判決別紙4記載の控訴人ら)敗訴の部分を取り消す。

2  原判決中右第一審原告らに関する部分を左のとおり変更する。

第一審被告は右第一審原告らに対し、本判決別紙4請求金額目録中の請求総額欄記載の各金員及びこれらに対する同目録記載の控訴人番号一番ないし六四番の第一審原告らについては昭和五四年一一月三〇日より、同六五番ないし八二番の第一審原告らについては昭和五五年八月一九日より、同八三番ないし八五番の第一審原告らについては昭和五六年五月一九日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  この判決は仮に執行することができる。

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は右第一審原告らの負担とする。

〔昭和六〇年(ネ)第一八一号、同第一八二号事件について〕

一  控訴の趣旨

1  原判決中第一審被告敗訴の部分を取り消す。

2  右敗訴にかかる第一審原告らの請求(当審において請求の趣旨を訂正したとおりの)をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも右第一審原告らの負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は第一審被告の負担とする。

三  控訴人の民訴法一九八条二項の申立て

1  本判決別紙5の第一審原告ら目録記載の第一審原告らは、第一審被告に対し、それぞれ同目録の「支払金額」欄記載の各金員及びこれに対する昭和六〇年三月二六日から完済に至るまで、年五分の割合による金員を支払え。

2  右申立てに関する訴訟費用は、右第一審原告らの負担とする。

四  右申立てに対する答弁

1  第一審被告の民訴法一九八条二項の申立てを棄却する。

2  右申立てに関する訴訟費用は、第一審被告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

第一審原告らの請求原因は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実摘示(原判決Ⅰ1表三行目から同Ⅰ49裏八行目まで。)のとおりであるから、これを引用する。

1  当審における死亡従業員の相続関係について、原判決Ⅰ1裏一〇行目の次に改行して次のとおり加える。

「また、当審において死亡した従業員の遺族である第一審原告らは、それぞれ右死亡従業員と本判決別紙6の当審係属中死亡にかかる元従業員の遺族原告相続関係一覧表記載の身分関係にある者であり、右死亡従業員は、それぞれ同別紙記載の日に死亡した。」

2  原判決Ⅰ3表七行目から九行目にかけての「圧縮空気を動力源として先端に装着されていた。長さ約1.0〜1.5メートルののみを回転させながら・・」を「圧縮空気を動力源として先端に装着されていた長さ1.0〜1.5メートルののみを回転させながら・・」と改め、同Ⅰ21裏一二行目の「四、」を「五、」と改める。

3  原判決Ⅰ49表九、一〇行目の「死亡により別紙5記載」を「死亡(当審にて死亡した元従業員を含む。)により、本判決別紙7記載」と改める。

4  原判決Ⅰ49裏一行目及び同五行目の「別紙5原告別請求金額一覧表」を当審における訴訟承継に伴い、それぞれ「本判決別紙7第一審原告別請求金額一覧表」と改める。

二  請求原因に対する認否及び第一審被告の反論

第一審被告の右認否及び反論について、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実摘示(原判決Ⅱ1表二行目からⅡ123裏一一行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決Ⅱ1表五行目で引用する「別紙9の各被告の主張」のうち、第一審原告畑原松治の職歴欄に関する原判決ナ22表一行目から一〇行目までを次のとおり改める。

「同第一審原告は、第一審被告会社の鹿町鉱において、次のとおり就労した。

(1) 昭和一四年五月二〇日から昭和一七年五月三一日まで掘進作業。

(2) 昭和一七年六月一日から昭和二一年六月三〇日まで坑外作業。

(3) 昭和二一年七月一日から同年八月六日まで掘進作業。」

2  原判決Ⅱ1表五行目で引用する「別紙9の各被告の主張」のうち、死亡従業員大宮金重の職歴に関する第一審被告の主張の原判決ニ24裏一〇行目の「原告の主張一2、3は認める。」を「原告の主張一3、4は認める。」と改め、死亡従業員小林忠義の職歴に関する第一審被告の主張の原判決ト117表一〇行目の「原告主張一1は認める。」を「原告主張一は認める。」と改める。

3  原判決Ⅱ53表二行目の「取明け、」を「取り分け、」と改め、同Ⅱ59裏一二行目の「実用に適するものがなかった」の次に「(石炭鉱山で使用される軽量の手持式湿式さく岩機は、戦後炭則の制定後、官界、業界及びメーカーが三者一体となって開発、改良が行われ、その結果として昭和三〇年頃に至って初めて実用に耐え得るようになったものである。)」を加える。

4  原判決Ⅱ60裏末行の次に改行して、次のとおり加える。「なお、防じんマスクが真に実用の域に達したのは静電濾層マスクが完成した昭和三五年頃以後のことである。防じんマスクに関するJISが初めて制定公布されたのは、昭和二五年一二月二六日であり、それ以前には明確な公的に承認された防じんマスクの性能に関する基準は存在しなかった。防じんマスクの技術水準は、昭和二九年頃においてすら、濾じん効率を犠牲にしても吸気抵抗の低いものを選ばなければならない状況であり、いわんや昭和二〇年以前のそれはタオル以上の機能を果たすものではなかった。」

5  原判決Ⅱ86表九行目の次に改行して、次のとおり加える。「すなわち、石炭鉱業は地下を掘削し、坑内作業を不可欠とするところから、一般産業と異なる危険防止の必要があり、そのため、古くから国の監督に服することと定められ、鉱業法制上、特に鉱山保安の行政監督が厳重に施行され、しかして、各時代に施行された保安法制及びこれに基づく鉱業監督の実施基準は、当該の各時期において鉱業実務上最善として公に知られた鉱山技術、衛生工学技術の水準に照らし、適正妥当と公に認められた基準が採用されていたのであるから、この国の基準を尽くすことが即ち、鉱山衛生に関する雇用契約に伴う信義則上の要請を満たしたものと客観的に認められるからである。

石炭鉱業は、現代産業において不可欠の基幹産業で国の石炭政策の下に遂行されてきたものであって、安全又は衛生上の危険の故をもってその事業を停廃することができないものであるから、前記基準を超えたものは安全配慮義務の範囲を超えるものといわなければならない。

石炭鉱山の坑内作業における粉じんは、作業によってその程度は異なるが不可避的に発生するものであって、しかも地上と異なり、地下坑道という有限空間の中で発生するものであるから、そのような環境の特殊性から必然的な制約があり、粉じんを全く発生させない、あるいは作業者が粉じんを全く吸入しないような措置は物理的にも困難で、技術的にも限界があるのは当然である。にもかかわらず、石炭は水力とともにわが国の貴重な国産エネルギーとして不可欠のもので、石炭鉱業は、戦時中は戦争遂行のため、戦後は経済復興のため基幹産業として国の石炭政策の規律の下に強力に維持されてきたのである。

「許された危険」とは、危険ではあるが、しかし社会的に有益ないし必要な行為は、他の法益を侵害する虞れを伴うものであっても、一定範囲内では合法と認められる、というものであり、石炭鉱業もその一つであることはいうまでもない。この刑法の分野で認められる「許された危険」の法理は、民事法の分野でも認められるべきものであって、この見地からしても、鉱山保安法、石炭鉱山保安規則等の公法上の安全基準、衛生基準を遵守することによって、安全配慮義務は果たされたものといわざるをえないのである。

これを要するに、本件の判断に当たっては、いわゆる「許された危険」の法理に立脚するとともに、労働基準法、労働者災害補償保険法、国家公務員災害補償法等の災害補償との関連で安全配慮義務の内容を限定的に解釈すべきである。」

三  抗弁

第一審被告の抗弁については、次のとおり改め、当審における新たな主張を追加するほかは、原判決事実摘示(原判決Ⅲ1表二行目から同Ⅲ43表三行目まで)のとおりであるから、これを引用する。ただし、右摘示中、次に述べるところと矛盾そごする部分は、次に述べるところによって訂正されたものである。

1  原判決Ⅲ5表一〇行目の次に改行して、次のとおり加える。

「(7) 第一審原告らは、炭鉱夫じん肺は既に昭和五年に公的に確認されているとして、商工省鉱山局発行の『本邦鉱業の趨勢』を挙げ、『昭和五年本邦鉱業の趨勢』(甲第一五九号証の二)には石炭山のけい肺と炭肺患者数が記載されていることを指摘する。しかしながら、右証書の内容並びにその基礎となった数値の出所等からみれば、第一審原告らの提出した『本邦鉱業の趨勢』に関する証書(甲第一五九号証の一ないし三及び甲第一六八号証ないし第一七四号証)に挙げられた石炭山の傷病者の数が『業務外』すなわち業務とは無関係な疾病等の患者数であることが明らかである。

したがって、『本邦鉱業の趨勢』の石炭山の統計にけい肺、炭肺の項目があり、そこに患者数の記載があることをもって、その頃石炭山においてけい肺、炭肺が発生することを認識していた、あるいは認識し得たとすることはできない。」

2  原判決Ⅲ14裏末行の次に改行して、次のとおり加える。

「7 このような医学的知見の積み重ねがあって、一般的な医学的合意が得られ、昭和三五年の『旧じん肺法』によって初めて石炭粉じんを含む『鉱物性粉じん』によるじん肺の認識が確立された、昭和一四年五月から同二〇年八月までの間における一部の者の医学的見解として、炭じんが有害であるとの抽象的な見解があったとしても、以上の諸事実に照らすときは、これによる症状は労働能力に影響がないとみられる程度の軽症なものであるとの認識にすぎず、労働能力を減退ないし喪失させるような症状が相当に高い割合で発症することの予見可能性がなかったことは明らかである。したがって、第一審被告において当時一般的衛生対策のほかに、特別の配慮措置をしなかったことをもって、安全配慮義務の不履行があったとするのは相当でない。」

3  原判決Ⅲ17表一〇行目の次に改行して、次のとおり加える。

「なお、右鉱警則は、昭和四年にさらに改正され、六三条及び六六条により、著しく粉じんを飛散する作業場所における注水その他粉じん防止施設の設置、防じん具(マスク)の使用を義務づけているけれども、右鉱警則の各規定は、その改正の経緯からみても、運用の実態からみても、戦後の法制への承継のされ方からみても、炭鉱以外の鉱山すなわち金属鉱山の遵守すべき義務を定めたものであり、石炭鉱山には適用がないものとして解釈運用されてきたものである。

仮に鉱警則六三条及び六六条の規定が石炭鉱山に適用されるとしても、鉱警則施行当時においては、湿式さく岩機として実用に供し得るものは存在せず、また、防じんマスクも実用に耐え得るものは存在しなかったものであり、右鉱警則の各規定をもって、第一審被告の安全配慮義務の根拠とすることはできない。」

4  消滅時効の抗弁(原判決Ⅲ35裏一行目から同Ⅲ37表一〇行目まで)について、消滅時効の起算点に関する従前の各主張の順位のみにつき当審において次のとおり改め、さらに、消滅時効の期間について新たな主張を追加する。

(一) 消滅時効の起算点についての主張順位

(1) 第一審被告は、まず第一に、第一審原告ら元従業員が第一審被告会社を退職した日から消滅時効が進行するものと主張する。

(2) 仮にそうでないとしても、第一審原告ら元従業員につき初めてけい肺、じん肺の有所見の診断ないし管理区分(症度)の決定がなされたときから消滅時効が進行するものと主張する。

(3) 仮にそうでないとしても、第一審原告ら元従業員につき要療養(管理区分二、三の合併症ないし管理区分四)の行政上の認定がなされたときから消滅時効が進行するものと主張する。

(4) 仮にそうでないとしても、第一審原告ら元従業員のうち死亡した者については、死亡の日から消滅時効が進行するものと主張する。

(二) 消滅時効の期間(当審での新たな主張の追加)

第一審被告は、本件における消滅時効の期間につき、主位的には商事時効である五年(商法五二二条)を主張するものであり、仮にこれが認められないとしても一〇年(民法一六七条一項)の時効期間を主張するものである。

すなわち、第一審被告は「鉱業ヲ営ム者」であるから商法上の商人であり(商法四条二項)、したがって、第一審被告がその営業のためになす行為は商行為である(商法五〇三条一項)。また、第一審被告は商法五二条二項に定める会社に当たるので、第一審被告がその営業のためになす行為は商行為であるともいえる(商法五二三条による同法五〇三条一項の準用)。いずれにせよ、第一審被告がその営業のためになす行為が商行為であることに異論のないところ、商人である第一審被告の行為はその営業のためになすものであるとの法律上の推定を受けるのであるから(商法五〇三条二項)、第一審被告の行為は、特段の反証がないかぎり、商行為であり、商法の適用を受けることとなる。右の法理は、第一審被告が雇主として締結する雇用契約においてもなんら変わるところはなく、したがって、第一審被告が第一審原告ら元従業員との間に締結した雇用契約は、特段の反証がないかぎり商行為であり、商法の適用を受け、右雇用契約によって生じた債権の消滅時効は五年間である(商法五二二条)。そして、本件における損害賠償請求権は、右雇用契約から生じた安全配慮義務の不履行によるものであるとされているのであるから、これは正に右雇用契約によって生じた債権にほかならず、したがって、右債権の消滅時効期間は五年と解すべきである。

(三) 以上の次第であって、これを各第一審原告ら元従業員にそれぞれ適用すると、時効期間の進行開始時期及び時効完成日は、本判決別紙8消滅時効の一覧表(第一審被告の主張)記載のとおりであるから、以上の事由による消滅時効を援用する。

5  原判決Ⅲ41表一一行目の次に改行して次のとおり加え、同一二行目の「第五」を「第六」と改める。

「第五 賠償責任減免事由及び割合

前記『第三、他粉じん職歴』及び『第四、過失相殺』で述べたとおり、仮に第一審被告に第一審原告らに対する損害賠償責任があるとしても、第一審原告ら元従業員が第一審被告以外の粉じん職場で稼働した職歴があるときは、その勤務年限の割合によって第一審被告の責任を限定すべきであり、また、第一審原告らの元従業員の防じんマスクの着用懈怠、喫煙、療養懈怠及び配置転換拒否等は、右賠償額の決定にあたり過失として斟酌すべきものであって、これを第一審原告ら元従業員につき個別に、第一審被告の責任減免事由及びその減免割合を示すと、それぞれ本判決別紙9賠償責任減免事由割合一覧表記載のとおりである。

6  原判決Ⅲ42表七、八行目の「(一次三三番伊福太吉、同三九番田中重信についてのものを除く)」を削り、同九行目の「別紙14損害填補額一覧表」を「本判決別紙10損害填補額一覧表」と改める。

四  抗弁に対する認否及び反論

抗弁に対する第一審原告らの認否及び反論については、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実摘示(原判決Ⅲ43表五行目から同Ⅲ76表四行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決Ⅲ47裏一一行目の次に改行して、次のとおり加える。

「また、国も第一審被告の創業当時には既に炭鉱夫じん肺の発生を具体的に把握していた。すなわち、昭和六年商工省発表の『昭和五年度本邦鉱業の趨勢』には、金属山・石炭山ともに、石炭山における『けい肺』・『炭肺』の患者数が具体的に報じられ、それ以降昭和二三年に刊行された『昭和一四年、一五年本邦鉱業の趨勢』まで統計が続けられた。右『本邦鉱業の趨勢』は、商工省鉱山局がわが国鉱業の概況を伝える行政統計資料であるが、それが昭和五年度版以降、このようにじん肺患者数として報告するようになったのは、昭和四年の鉱警則改正及び昭和五年の鉱夫労役扶助規則適用についての通牒の結果であり、このじん肺防止と被害補償に関する制度確立にともない、国がじん肺患者把握に乗り出した結果である。」

2  原判決Ⅲ51裏八行目の「抗弁第二は争う。」を「抗弁第二(消滅時効)は、当審における新たな主張をも含め、全て争う。」と改める。

3  原判決Ⅲ53裏五行目の次に改行して、次のとおり加える。

「3 本件損害賠償請求権の法的性質は、雇用契約上の本来の給付義務の不履行の場合とは異なり、右本来の給付義務の履行と無関係に生ずる生命、身体、財産などの現在の利益を維持できなかったことに対する損害の救済を目的とするものであり、むしろ不法行為に基づく損害賠償請求権と同様に観念されるものであるから、その消滅時効の起算点について民法七二四条前段の規定を類推適用し、民法一六六条一項の『権利ヲ行使スルコトヲ得ル時』とは同法七二四条の『被害者又ハ其法定代理人ガ損害及ビ加害者ヲ知リタル時』と解し、両条項を統一的に理解すべきである(すなわち、民法七二四条前段は、同法一六六条一項に対する関係で単に『短期』消滅時効を定めた点で特則をなすにすぎず、時効起算点については民法一六六条一項の『権利ヲ行使スルコトヲ得ル時』の内容を、契約上の本来の給付義務の『履行期』という観念が存在しない『損害賠償請求権』に関して、より具体化したにすぎないものと解する。)。

そうだとすれば、右にいう『権利ヲ行使スルコトヲ得ル時』とは、本件損害賠償請求権という『権利の性質、内容』及び第一審原告らの『職業、地位、教育』等を検討したうえ、右権利行使を現実に期待ないし要求することができる時というべきところ、これを本件についていえば、本件のような健康保持義務違反による損害賠償請求権の法理は昭和四〇年代後半から五〇年代にかけて一般化した権利であること、第一審原告ら元従業員の学歴は、殆どが旧制度上の尋常小学校又は尋常高等小学校卒業であり、第一審被告会社や他会社で炭鉱夫として勤めるほかは、土木作業、農業、漁業、製材所、大工等の仕事に従事していた者が多く、裁判や権利行使と無縁な生活を送っていたこと、第一審被告会社勤務中は炭鉱という閉鎖社会で第一審被告への強い帰属意識のなかで就労し、また、労働組合の脆弱性及び会社側の巧みな労務政策からして、第一審被告に対する権利を覚醒することはなかったこと等の諸事情に徴すれば、第一審原告らが本件損害賠償請求権の行使を現実に期待することができる状況になった時期は、早くとも北松浦郡佐々町佐々中央公民館において原告団結成式が開かれ、そこで第一審原告ら代理人から系統的な本件損害賠償請求権に関する説明が行われた昭和五四年一〇月一〇日を一つの区切りとすることができる。

4  原判決Ⅲ74裏五行目の次に改行して、「第五 抗弁第五(賠償責任減免事由及び割合)は争う。」を加え、同六行目の「第五 抗弁第五(損益相殺)について」を「第六 抗弁第六(損益相殺)について」と改める。

5  原判決Ⅲ76表二、三行目の「その金額は否認し、その余の主張は争う。」を「その金額(本判決別紙10損害填補額一覧表記載の金額)は否認する。」と改める。

五  再抗弁及びその認否

第一審原告らの再抗弁(権利濫用)及びこれに対する第一審被告の認否は原判決事実摘示(原判決Ⅲ76表六行目から同裏一〇行目まで)と同一であるから、これを引用する。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

第一当事者

当裁判所も、次のとおり付加、訂正するほかは、当事者につき、原審と事実の認定を同じくするから、原判決理由中その説示(原判決ア1表三行目から同ア2表一〇行目まで)を引用する。

一原判決ア1表八、九行目で引用する、原判決別紙9個別主張・認定綴第一綴中の「第三、当裁判所の認定、一、被告での職歴」のうち、死亡従業員髙富千松の職歴の認定について、原判決ニ42裏七行目の「証拠はない。」の次に「乙第三一六号証の一、二は未だ第一審被告での職歴についての右認定を覆して第一審被告の右主張事実を証するに足りない。」を加え、第一審原告有川春幸について、原判決ニ16裏二行目の「被告の主張一1(二)(4)ないし(6)のとおり。」を「被告の主張一1(一)(4)ないし(6)のとおり。」と改め、第一審原告十時為生について、原判決ヌ12表一〇行目の「被告の主張一(2)のとおり。」を「被告の主張一(二)のとおり。」と改め、死亡従業員堀内亮次について、原判決ヌ32裏末行の「被告の主張一1(1)ないし(3)のとおり。」を「被告の主張一1(一)ないし(三)のとおり。」と改め、第一審原告畑原松治について、原判決ナ25表四行目の「前記認定を覆すに足りず、」の次に「乙第三一六号証の三は、前掲甲第一二〇五号証の一、六、及び七と対比し、未だ第一審被告での職歴についての前記認定を覆すに足りず、」を加える。

二原判決ア1表末行の次に改行して、次のとおり加える。

「第一審被告は、第一審原告山中サキとの間の雇用関係の存在を否認するけれども、〈証拠〉を総合すると、第一審原告山中サキが、第一審被告会社に就労し、昭和二三年五月から同二八年八月頃まで矢岳鉱においてコークス製造に従事していたことが認められる。もっとも、乙第三一六号証の四(厚生年金被保険者期間照会について、山中サキ回答)には「本人の矢岳炭鉱での記録はない。なお、昭和三二年、新大瀬炭鉱での記録はある。」旨の記載があるが、右証拠は、弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる甲第一一三〇号証の一四、一五及び前掲各証拠(殊に甲第一一三〇号証の一二、一三)と対比すると、未だ前記認定を妨げるものではなく、乙第二二九号証の一、三、乙第三一七号証の一ないし三も前記認定を左右するに足りず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。」

三原判決ア2表九行目の「請求原因第一、二2の事実」の次に「(但し、当審における死亡従業員の関係を除く。)」を加え、同ア2表一〇行目の次に改行して、次のとおり加える。「また、当審において死亡した元従業員(阿曽末治、大串岩吉、大宮金重、西田秀夫、直﨑光次、山道吉松、吉福怒、松田新一郎)の死亡年月日及びその遺族らとの相続関係が本判決別紙6の当審係属中の死亡にかかる元従業員の遺族原告相続関係一覧表中の各該当欄記載のとおりであることは、成立に争いのない甲第一一〇七号証の一六の一、二、同号証の三六、当審における第一審原告大宮シズエ本人の供述及びこれにより成立の真正を認め得る甲第一一〇七号証の三八、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一一〇六号証の一一、同第一一一九号証の一〇、同第一一三二号証の七、同第一一三三号証の八、同第一二〇七号証の七、及び弁論の全趣旨(殊に、本件記録中の右死亡従業員らの戸籍謄本)により認められる。」

第二本件各坑の概要

鹿町鉱西坑、同鉱東坑、同鉱本ヶ浦坑、同鉱南坑、同鉱小佐々坑・小佐々二坑、矢岳鉱矢岳坑、神田鉱神田坑、御橋鉱一抗・二坑、柚木事務所柚木坑、伊王島鉱業所伊王島坑の概要についての判断は、原判決理由説示(原判決ア2表一二行目から同ア7表一一行目まで)のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決ア2裏一〇、一一行目の「昭和三八年三日」を「昭和三八年三月」と改める。)。

第三本件各坑における各種作業の概要と粉じんの発生

当裁判所も、本件各坑における各種作業の概要と粉じんの発生につき、原審と事実の認定を同じくするから、原判決理由中その説示(原判決ア7表一三行目から同ア24裏六行目まで)を引用する(但し、原判決ア裏五行目の「坑道の幅」を「坑道の高さ」と、同ア13表二、三行目の「約四〇ないし一〇〇メートルの幅の採炭切羽を造り、」を「約四〇ないし一〇〇メートルの長さの採炭切羽を造り、」と各改め、同ア13表末行の「(トラフ)」を削り、同ア18裏一一行目の「大瀬三枚層」の次に「及び大瀬五尺層」を、同ア21裏三行目の「坑内保安係員」の次に「坑内技術助手を除く)」を各加え、同ア23表二行目の「天火」を「天日」と改める。)。

第四第一審被告の安全配慮義務及びその内容

当裁判所も、次のとおり付加、訂正するほかは、原審とこの点についての事実上並びに法律上の判断を同じくするから、原判決理由中その説示(原判決ア24裏八行目から同イ10裏末行まで)を引用する。

一原判決イ2裏四行目の次に改行して次のとおり加える。

「すなわち、鉱山保安法、石炭鉱山保安規則等の行政法令の定める労働者の安全確保に関する使用者の義務は、使用者が労働者に対する関係で当然に負担すべき安全配慮義務のうち、労働災害の発生を防止する見地から、特に重要な部分にしてかつ最低の基準を公権力をもって強制するために明文化したものにすぎないから、右行政法令等の定める基準を遵守したからといって、信義則上認められる安全配慮義務を尽くしたものということはできない。

4 ところで、第一審被告は、石炭鉱業の社会的有用性を説き、いわゆる「許された危険」の法理を援用したうえ、右行政法令等の安全基準、衛生基準を遵守をすることによって安全配慮義務は果たされた旨主張する。

たしかに、石炭は水力とともにわが国の貴重な国産エネルギーとして不可欠のものであり、石炭鉱業は現代産業において不可欠の基幹産業として、国の石炭政策のもとに、戦時中は国策遂行のため、戦後は経済復興のため社会的に重要な役割を担ってきたことは公知の事実であり、第一審被告も石炭鉱業を目的とする企業の一つとして右の例にもれなかったことが認められ、この意味において、第一審被告の果たした右役割を十分評価するにやぶさかではない。

しかしながら、石炭鉱業がいかに社会的に必要かつ有益な事業であるからといって、右業務遂行の過程で労働者に身体、健康の障害が発生しても、それが許されてよいとする理由は見出し難く、生命、健康という被害法益の重大性に鑑み、第一審被告の右主張は到底採用することができない。そして、このことは、本件じん肺のような職業病について、労基法その他の行政、労働法令上の災害補償制度が存在することによってもなんら変わりはないというべきである(労働災害補償制度は、一定の範囲内で労働者や遺族の生活保障を図るものにすぎず、労働災害に際して被災労働者がさらに損害賠償を請求し得ることは、労基法八四条二項及び労災保険法一二条の四第二項の規定からも明らかである。)」

二原判決イ2裏一一行目の「同別紙10各項記載」の次に「(但し、同別紙記載中の誤字については本判決別紙11の「正誤表」のとおり改める。)」を加える。

三原判決イ5表末行の「けい肺を含む炭肺」の次に「(以下、これを『炭鉱夫じん肺』ともいう。)」を加える。

四原判決イ6裏一行目の次に次のとおり加える。

「すなわち、大正一五年の調査により、鹿町炭鉱においてインガーソル手持噴水さく岩機が実際に使用されていたことが判明し(本邦重要鉱山要覧、前掲甲第五七号証)、また、昭和八年の調査(『炭鉱におけるさく岩機使用状況調査報告』前掲甲第七〇号証)により、昭和三年一一月現在、三井山野三坑では、ハンマードリルの湿式さく岩機であるインガーソルランドBCRWが20.5台、鹿町では同型機が22.7台それぞれ備え付けられ、現実に使用されていたことが明らかにされている。一方、防じんマスクについては、大正時代からマスク着用の必要性が指摘され、マスクの材質、性能についての研究も行われていた(〈証拠〉)。

右認定に反する〈証拠〉は、前掲各証拠に照らしてにわかに措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。」

五原判決イ6裏五行目の次に改行して、次のとおり加える。

「もっとも、第一審被告は、鉱警則の六三条及び六六条の規定は、炭鉱以外の鉱山すなわち金属鉱山において遵守すべき義務を定めたものであり、石炭鉱山には適用がないものとして解釈運用されてきた旨主張する。

しかしながら、右鉱警則には六三条及び六六条の規定を石炭鉱山には適用しない旨を窺わせるような特段の規定は見当たらないのみなず、当時の鉱警則の解説書(前掲甲第六四号証の三)によれば、鉱警則の諸規定(例えば、二二条、二四条、六二条、六三条)の解説中に石炭鉱山をも含むことを前提とした、あるいは石炭鉱山を念頭においた記述が随所に認められ、また、右六三条の解説に当たり、参考として英国炭鉱条例の規定を紹介していること、加えて、後記のとおりの鉱警則改正前後の状況をも併せ考えると、鉱警則の六三条及び六六条規定は石炭鉱山にも適用されていたものと認めるのが相当である。

すなわち、鉱山の職業病について内務省社会局が大正一〇年及び一二年に実施した「坑夫ヨロケ病及びワイルス病に関する調査」(前掲甲第五四号証)により、けい肺発生状況が把握され、大正一四年には労働者を代表する側からパンフレット「ヨロケ=鉱夫の早死はヨロケ病」(前掲甲第五五号証)が出され、じん肺防止、罹患者保護の要請がなされ、同年の労働総同盟の大会で「ヨロケ」絶滅のための要求が決議されるなど、労働者の運動が高まり、そして昭和五年にILOの第一回国際けい肺会議が開かれるに至り、国際的にもじん肺問題に関心が集まった。他方、わが国においても、じん肺(炭鉱夫じん肺を含む)に関する英国炭鉱条例等の外国法制(前掲甲第六四号証の三)や外国の調査研究体制、補償制度(前掲甲第六二号証)が研究、紹介され、これらを通じて海外の事情についての認識が深められた。そして、このようにじん肺問題への関心が高まるなかで、石炭業界においても業界誌を通じて、炭鉱夫じん肺を含む相当数のじん肺情報が紹介、伝達されていたが、昭和四年には、石炭鉱業連合会が内務省の技師を招いてじん肺についての講演会を開催するに至り、その内容(炭鉱夫じん肺発生の指摘もある。)が同連合会の機関誌「石炭時報」(前掲甲第六二号証)により紹介された。さらに、鉱警則改正の翌年である昭和五年には、坑夫労役扶助規則についての通牒により、じん肺防止、罹患者の被害補償に関する制度が設けられ、右通牒は金属鉱山のみならず石炭鉱山においても適用された(前掲甲第七一号証、同第一六二号証)。

右事実によれば、職業病としてのじん肺(炭鉱夫じん肺を含む)問題は、鉱警則の改正当時、石炭業界においても無視することのできない課題として関心が寄せられていたことが窺われ、このような状況のもとで右改正がなされていることや、右鉱警則が、坑夫労役扶助規則についての通牒とともに、じん肺(炭鉱夫じん肺を含む)に関する外国法制、補償制度等の研究成果を採り入れ、その影響を受けていることを否定し難いこと、さらに、右通牒については炭鉱にも適用されるものとして解釈運用されていること等前示の諸事情を総合勘案すれば、鉱警則の前記規定は、じん肺防止の趣旨をも含むものとして、単に金属鉱山のみにとどまらず、石炭鉱山においても適用され、そのように運用されていたものと認めるのが相当である。

右認定に反する〈証拠〉は前掲各証拠に照らしてたやすく措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。」

六原判決イ7表七行目の次に改行して、次のとおり加える。

「第一審被告は、昭和一四年五月から同二〇年八月までの間における一部の者の医学的見解として、炭じんが有害であるとの抽象的な見解があったとしても、当時の一般的な医学的知見は、石炭粉じんによるじん肺の症状は労働能力に影響がないとみられる程度の軽症なものであるとの認識にすぎないのであるから、第一審被告においても、炭粉の吸入により労働能力を減退ないし喪失させるような症状が相当に高い割合で発症することの予見可能性はなかった旨主張する。

しかしながら、安全配慮義務の前提として第一審被告が認識すべき予見義務の内容は、生命、健康という被害法益の重大性に鑑み、安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的な危惧であれば足り、必ずしも生命、健康に対する障害の性質、程度や発症頻度まで具体的に認識する必要はないというべきであるから、第一審被告において、軽症とはいえ健康障害の認識又はその可能性が肯認される以上、労働能力に影響がない程度の軽症の認識にすぎないとか、発症頻度について認識がなかったとの事由をもって免責の抗弁とすることはできない。

また、第一審被告は、炭鉱粉じんによる肺疾病について、当時の一般的な医学的知見を重視するけれども、炭鉱粉じん吸入の有害性、すなわち、けい肺を含む炭肺ないし炭鉱夫じん肺罹患の危険性を指摘してこれを警告する有力な学説(白川説)が存在していたことは前叙のとおりであり、これに加えて、後記のとおり、当時既に炭鉱夫じん肺に罹患した患者が発生しており、かつ右発生状況が石炭業界にも報告されていたという事実は、第一審被告の予見可能性を肯認する資料として重要というべきである。

すなわち、商工省鉱山局は、昭和六年に我が国鉱業の概況をを伝える行政統計資料である『昭和五年度本邦鉱業の趨勢』(いずれも成立に争いのない甲第一五九号証の二、同第一六八号証)により、金属山のほか石炭山における『けい肺』・『炭肺』の患者数を報告しており、それ以降も昭和一五年頃に至るまで、同様に具体的な数字を挙げて石炭山における『炭肺』患者の発生状況を発表していた(〈証拠〉)(なお、第一審被告の予見可能性の判断資料となる危険情報としては、石炭山における『炭肺』患者の発生という事実を重視すべきであり、このことは、右に挙げられた『炭肺』罹患者数が業務上の疾病を示すものであるかどうかによって左右されないというべきである。)。さらに、石炭業界の一部(三井鉱山三池鉱業所)では、昭和一四年から同二三年までの間に行った健康診断の結果により、自社に六〇人の炭鉱夫じん肺患者が発生したことを把握していた(前掲甲第一二六号証)。」

七原判決イ7裏七行目の「証拠とはなしえない。」の次に「当審証人御厨潔人、同荒木忍、同木元武夫、同内村豊、同重信安人の各証言も、いまだ前記認定を覆すに足りず、」を加える。

第五安全配慮義務の不履行

当裁判所も、次のとおり改めるほかは、さく岩機の湿式化、撤水、その他の発じん防止対策、坑内通気、防じんマスク、発破作業、健康診断、配置転換、じん肺教育等につき、原審と事実の認定及びこれに基づく判断を同じくするから、原判決理由中その説示(原判決ウ1二行目から同ウ25裏末行まで)を引用する。

一原判決ウ1表九行目の「乙第一三七号証の一九」の次に「及び同甲第九八、第九九号証、」を加え、同一〇行目の「第九七ないし第九九号証、」を「第九七号証、」と改める。

二原判決ウ2表九行目の「九ないし一三」を「九、一〇、」と改め、同行目の「一五、」を削り、同ウ3裏末行の「ヘッドを取付け、」を「ヘッドを取替え、」と、同ウ6裏三行目の「三井鉱業所」を「三池鉱業所」と各改める。

三原判決ウ9表七、八行目の「許容基準に差異があったことは前記のとおりである。」を「浮遊粉じん量の許容基準について、おのずから差異の存することは見易い道理である。」と改め、同ウ13表九行目の「三一個」を「四三一個」と、同ウ17裏一〇、一一行目の「日鉱鉱業九州地方労働組合連合会」を「日鉄鉱業九州地方労働組合連合会」と改める。

第六因果関係

当裁判所も、第一審被告の前記安全配慮義務の不履行により、第一審原告ら元従業員がじん肺に罹患したものと認定、判断するもので、その理由は、原判決エ1表四行目の「前認定のとおり・・」から同エ1裏五行目の「推認されるものというべきである。」までを次のとおり改めるほかは、原判決の説示するところ(原判決エ1表二行目から同エ2表末行まで)と同一であるから、これを引用する。

「前記第三で認定のとおり、本件各坑における掘進、採炭、仕繰、坑内外運搬、豆炭及びコークス製造等の各種作業においては、防じん措置を施すことなしには粉じんが発生するということ、第一審原告ら元従業員のうち原判決別紙9個別主張・認定綴・第一綴所掲の第一審原告ら元従業員(但し、大串岩吉、大宮金重、髙富千松、田渕榮、玉置利夫、十時為生、増本京一、松尾茂、石丸源市及び正法地秀夫の一〇名を除く。)が、同所掲の「第三、当裁判所の認定」記載のとおり、本件各抗における右各種作業に従事したこと(なお、右の大串岩吉ら一〇名及び原判決別紙9の第二綴所掲の第一審原告ら元従業員については、同人らに関する請求権が後記第八で認定判断のとおり消滅時効にかかっているので、この項においては判断を省く。)、前記第五で認定のとおり、第一審被告が安全配慮義務を十分に履行しなかったこと、右別紙9第一綴「第三、当裁判所の認定」記載のとおり、右第一審原告ら元従業員がじん肺に罹患したことが認められる本件のもとでは、特段の反証がないかぎり、第一審被告の安全配慮義務の不履行により本件各坑において粉じんが発生し、第一審原告ら元従業員がこれに暴露してこれを吸入し、そのためにじん肺に罹患したことが推認されるものというべきである。

第七有責性

第一審被告の有責性についての判断は、次のとおり改めるほかは、原判決理由説示(原判決エ2裏二行目から、同エ3裏六行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

一原判決エ2裏六行目の「 ・・可能であったこと、」の次に「また、当時既に石炭鉱山において炭鉱夫じん肺に罹患した患者が発生しており、国や石炭業界の一部では右患者発生状況を具体的に把握し、その情報を石炭業界その他関係分野に伝えていたこと、」を加える。

二同一〇行目の「右各知見の存在」を「右各知見の不存在」と、同エ3裏二、三行目の「本件安全配慮義務の履行が著しく困難であったことが認められるけれども、」を「本件安全配慮義務の履行が容易ではなかったと推認されないではないけれども、」と各改める。

第八消滅時効

一本件損害賠償請求権は、雇用契約から信義則上生じる安全配慮義務の違反による損害賠償の請求である。すなわち、本件において、第一審被告は雇用契約上本来の給付義務として賃金支払債務の他、労働場所提供等の債務を負っていたところ、安全性に欠ける労働場所を提供し、その他安全配慮義務を履行しなかったために第一審原告ら元従業員がじん肺に罹患して健康障害等の損害を受けた、というものである。右安全配慮義務は、本来の給付義務に付随するものではあるがその内容を成すものではなく、これと法的性質を同じくするものではないから、右安全配慮義務の不履行は積極的な債権侵害として、本来の給付義務の不履行の場合と異なって理解すべきである。消滅時効の関係においても、右安全配慮義務不履行による損害賠償請求権は、その発生の時から消滅時効が進行するものというべく、本来の給付義務と同一の運命に服しこれと共に消滅するものと解すべきではない。これを本件に即して実質的にみても、後記認定のとおり、じん肺はその発症まで長期の潜伏期間があり、一定の程度に至った病状は治ることなく進行するものであることを考えると、遅くとも本来の給付義務の履行請求可能な最終時である退職時から時効期間たる一〇年以上経過した後に発症したときは、右安全配慮義務不履行による損害賠償請求権は、その行使の機会が全くないまま時効により消滅することになり、著しく不合理な結果となるからである。

しかしながら、本件損害賠償請求権も契約上の債権であるから、民法一六八条により一〇年の消滅時効期間に服し、また、右時効の起算点は、同法一六六条の適用を受け、「権利ヲ行使スルコトヲ得ル時」から進行するものと解すべきである。そして、右の「権利ヲ行使スルコトヲ得ル時」とは、権利を行使するにつき法律上の障害がなく、さらに権利の性質上その権利行使を現実に期待することができる時と解すべきところ、これを本件に即していえば、安全配慮義務違反による損害が発生した時、すなわち、第一審原告ら元従業員のじん肺罹患の症状が現実化、顕在化した時(発症の時)に本件損害賠償請求権が成立し、この時から消滅時効が進行するものと解するのが相当である。けだし、権利を行使するにつき法律上の障害がなくとも、権利の性質上その権利行使を現実に期待することができない状態のもとで消滅時効が進行するものとすれば、前記のとおり権利行使の機会が全くないまま時効消滅する場合も生じ、相当でないから、本件損害賠償請求権が雇用契約上の信義則に由来する権利であることに鑑み、殊に粉じん暴露から通常、数年から一〇年ないし二〇年の長期の潜伏期間を経てじん肺の症状が発現するという本件のような場合においては、消滅時効の起算点の関係では、じん肺罹患の症状が現実に発現し、顕在化した時に安全配慮義務不履行による健康被害の結果(損害)が発生したものというべく、したがって、右時点において初めて、第一審被告による過去の安全配慮義務不履行の存在が客観的に認識可能となり、本件損害賠償請求権の行使を現実に期待することができるからである。

もっとも、じん肺症状の発現の仕方は一様ではなく、時間的経過を経て多様な症状を呈する進行性疾患であるが、前示のじん肺症状の発現、顕在化した時とは、当時の医学的知見のもとで、じん肺の有所見の診断が可能な程度の症状が発現し、かつ、じん肺に罹患したことが客観的に確認された時というべく、これを本件に即していえば、第一審原告ら元従業員がじん肺(けい肺)に関する最初の行政上の決定(けい特法ないしけい臨措法上の症度決定、旧じん肺法上の健康管理区分決定、改正じん肺法上のじん肺管理区分の決定)を受けた日とするのが相当であるから、その翌日をもって一〇年の消滅時効の起算日とすべきである。

ところで、第一審被告は、消滅時効の起算日は、行政上の決定の有無にかかわらず第一審原告ら元従業員につき初めてじん肺(けい肺)の有所見の診断がなされたときとすべきである旨の主張もするけれども、右行政上の決定は、後記のとおり、じん肺審査医が公定の診断方法により診断、審査した結果に基づき、行政機関が慎重に検討した上でなされる決定であって、その手続及び内容ともに統一性と公正の担保された信頼性の高い公的判断であるから、客観性、画一性の要請される時効制度の趣旨に鑑み、右行政上の決定により、じん肺に罹患したことが客観的に確認されたものとして、右決定の日を消滅時効の起算点に措定するのが相当である。

したがって、第一審被告の右主張は採用することができない。

なお、第一審原告らは、本件の債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求権は、不法行為に基づくそれと法的構造が同一であるから、その消滅時効の起算点については、不法行為の場合の民法七二四条前段の規定を類推適用すべきである旨主張するが、安全配慮義務の契約法的性質に徴すれば、本件損害賠償請求権については、民法一六六条一項に定める一般原則に従い「権利ヲ行使スルコトヲ得ル時」から消滅時効が進行するものというべく、契約上の債務不履行の法理と不法行為の法理とが峻別されている現行法体系のもとでは、本件損害賠償請求権が不法行為に基づく損害賠償請求権と類似の法的性質を有するからといって、消滅時効の起算点についてのみ、右の一般原則と別異に解するのは相当でないから、右主張は採用することができない(第一審原告らが本件において安全配慮義務違反を理由とする債務不履行による損害賠償請求のみを選択し、不法行為に基づく損害賠償の請求をしていないことは訴訟上明らかである。)。

二第一審被告は、本件損害賠償請求権は商行為である雇用契約によって生じた債権であるから、商法五二二条の適用を受け、五年の消滅時効期間に服する旨主張する。

しかしながら、商法五二二条が適用または類推適用されるべき債権は、商行為に属する法律行為から生じたもの又はこれに準ずるものでなければならないところ、前示のとおり、安全配慮義務は、雇用契約上の付随義務として信義則上第一審被告が第一審原告ら元従業員に対して負担する義務であり、右義務の違反による本件損害賠償請求権は、第一審原告ら元従業員に生じた損害の公正な填補を目的として新たに発生した債権であって、雇用契約に基づく本来の給付義務とはその法的性質を異にし、これとの同一性を観念する余地はなく、しかも、商事取引関係の迅速な解決のため短期消滅時効を定めた前記法条の立法趣旨からみても、本件損害賠償請求権をもって商行為によって生じた債権に準ずるものと解することもできないから、その消滅時効の期間は、前示のとおり民事上の一般債権として民法一六七条一項により一〇年と解するのが相当である。

したがって、第一審被告の右主張は採用することができない。

三1  そこで、第一審原告ら元従業員のうち、各人による本件各訴え提起の日から遡って一〇年頃までに右の行政上の決定を受けた者について検討する。

(1) 大串岩吉(第一次の六番の被訴訟承継人)

〈証拠〉及び弁論の全趣旨によれば、右大串岩吉は昭和二八年頃、それまで一気に登れていた斜坑を、一息つかないと登れないようになって体の衰えを感じるようになり、けい肺検診の結果、昭和三〇年一二月一三日、けい肺症度一の行政上の決定を受け(昭和三〇年頃けい肺症度一の認定を受けたことは同人の自認するところである。)、その後、昭和四八年三月二六日管理四の行政上の決定を受けたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(2) 大宮金重(第一次の七番の被訴訟承継人)

〈証拠〉及び弁論の全趣旨によれば、右大宮金重は、昭和三〇年一二月九日のけい肺検診の結果、昭和三二年頃けい肺第二症度の行政上の決定を受けたこと(昭和三〇年一二月九日の検診の結果けい肺と診断され、粉じんの発生が極めて少ない坑内作業に転換する必要がある者に該当するとされたことは、同人の自認するところである。)、その後、昭和四〇年頃息苦しくなるという自覚症状が現れて仕事ができなくなり、昭和四七年七月一四日管理区分四の行政上の決定を受けたことが認められ、これに反する証拠はない。

もっとも、右大宮金重は、右けい肺検診の結果について通知もされなかったと主張し、同人の原審における供述中にはこれに符合する部分があるが、当時施行されていたけい特法のもとでは、粉じん作業に常時従事させる労働者に対してけい肺検診を実施した使用者は、右検診の結果医師によりけい肺にかかっていると診断された者にかかるエックス線写真等の所定の資料を、当該事業場の所在地を管轄する都道府県労働基準局に提出しなければならず、そして、右資料の提出を受けた都道府県労働基準局長から当該労働者について決定された症状区分の通知を受けたときは、遅滞なくその内容を当該労働者に通知しなければならないとされていたのであり(同法三条2項、四条、五条1項、3項参照)、また、〈証拠〉によれば、第一審被告においても、右法規に定めるとおりの運用がなされていたことが窺われる。そうすると、右大宮金重に対しても右検診結果の通知がなされたと推認するのが相当であり、これに反する大宮金重の原審における供述部分はたやすく措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(3) 田渕榮(第一次の一五番の第一審原告)

〈証拠〉及び弁論の全趣旨によれば、同第一審原告は、昭和三一年にけい肺検診を受け、その結果、昭和三二年一一月一五日にけい肺症度一の行政上の決定を受けたこと(昭和三一年けい肺検診を受けた結果、昭和三二年一一月一五日けい肺症度一の通知を受けたことは第一審原告の自認するところである。)、昭和三七年六月に第一審被告を退職した後、職業訓練を受けている最中に、最初の健康状態の異常(激しい息切れ)を感じたこと、その後、昭和五三年一月二八日にじん肺管理四の行政上の決定を受けたことが認められ、これに反する証拠はない。

(4) 松尾茂(第一次の二四番の第一審原告)

〈証拠〉及び弁論の全趣旨によれば、同第一審原告は、昭和三一年頃から疲れやすく、息切れがするようになり、矢岳鉱の病院で診察を受け、そして昭和三二年一〇月頃、けい肺第一症度(SR1)の行政上の決定を受け(昭和三二年一〇月ころけい肺第一症度の認定通知を受けたことは、同第一審原告の自認するところである。)、その後、約二〇年を経過した昭和五三年五月一二日改正じん肺法によりじん肺管理区分二で肺結核の合併症のため、要療養の行政上の決定を受けたことが認められ、これに反する証拠はない。

(5) 石丸源市(第二次の一番の第一審原告)

〈証拠〉及び弁論の全趣旨によれば、同第一審原告は、昭和二九年本ヶ浦坑の人車坑道までの坂道を登るとき初めて息切れがする自覚症状を感じるようになり、昭和三〇年頃けい肺第一症度の行政上の決定を受け(昭和三〇年頃にけい肺症度一の通知を受けたことは、同第一審原告の自認するところである。)、その後、昭和五一年八月に管理三の、昭和五三年八月三一日に管理四の各行政上の決定を受けたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(6) 髙富千松(第一次の一一番の被相続人)

〈証拠〉及び弁論の全趣旨によれば、同第一審原告は、昭和三五年の定年の前頃から疲労感や息苦しさを感じるようになり、昭和四一年六月頃管理区分三の、行政上の決定を受け、その後、昭和四五年四月二五日管理区分四の行政上の決定を受けたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(7) 玉置利夫(第一次の一六番の第一審原告)

〈証拠〉によれば、同第一審原告は、第一審被告を退職する約一年前の昭和二九年頃から体がだるく、坂道を登ったりするときに途中で一息つかないと登れなくなり、昭和三二年頃じん肺の疑いをもたれていたが、昭和四〇年三月頃管理二の行政上の決定を受け、その後、昭和四八年一二月三日管理四の行政上の決定を受けたことが認められ、これに反する証拠はない。

(8) 増本京一(第一次の二三番の第一審原告)

〈証拠〉によれば、同第一審原告は、昭和四三年飯野炭鉱で働いていた頃から息切れがし、両手肘から先にしびれを感じるようになり、昭和四三年七月五日江迎病院で診察を受けたところじん肺と診断され、同年九月一六日管理三の行政上の決定を受け、その後、昭和四八年一二月二一日管理四の行政上の決定を受けたことが認められ、これに反する証拠はない。

(9) 正法地秀夫(第三次の三番の第一審原告)

〈証拠〉及び弁論の全趣旨によれば、同第一審原告は、伊王島鉱業所で就労していた当時の昭和四二年四月頃に管理二の行政上の決定を受けたこと(昭和四二年四月頃右行政上の決定を受けたことは、同第一審原告の自認するところである。)、当時は格別の自覚症状がなかったが、昭和五五年二月頃から急に体調が悪くなり、風邪をひきやすく、咳、痰が多く出るようになり、診察を受けた結果、昭和五五年六月一二日じん肺管理三ロ(PR3)、続発性気管支炎の合併症で要療養の行政上の決定を受けたことが認められ、これに反する証拠はない。

(10) 十時為生(第一次の一七番の第一審原告)

〈証拠〉(じん肺検診等結果証明書)によれば、既往症等の欄に、けい肺その他のじん肺として「三二年二月(C1)」との記載があり、右証拠に加えて、同第一審原告本人も原審において「昭和三二年二月の検診の結果、厚生部長から第一症度と言われた。」旨供述していることを併せ考えると、同第一審原告について、昭和三二年二月頃けい肺第一症度の行政上の決定がなされたものと推認するのが相当であり、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。そして、〈証拠〉によれば、同第一審原告は、昭和三九年一一月に第一審被告を退職する少し前頃から、風邪をひきやすく、また、咳、痰が多く出て、坑道を登る際に息切れするようになったが、その後、風邪で容態が悪化したことから昭和四八年三月長崎労災病院で診察を受け、同年六月一一日管理区分四の行政上の決定を受けたことが認められ、これに反する証拠はない。

右認定の事実及び〈証拠〉及び弁論の全趣旨によると、本判決別紙12消滅時効一覧表(当裁判所の判断)所掲の第一審原告ら元従業員については、右の最初の行政上の決定がなされた日は、同別紙記載のとおりであることが認められる(なお、第一審被告は、右の第一審原告ら元従業員のうち、内野春次郎、大野茂男、谷村清助、伊福太吉、岳野音松、松下千代吉、小林忠義、松崎寿男について、右認定の各行政上の決定がなされた日より前の日を消滅時効の起算日とする主張をしているが、同人らについては遅くとも右認定の各日の翌日から消滅時効が進行することになる。)。

第一審被告が本件において右の第一審原告ら元従業員ないしその遺族原告らについて消滅時効を援用したことは訴訟上明らかであるから、右の各日の翌日から一〇年を経過した後に本件訴えを提起したことが明らかな同別紙所掲の第一審原告らの本件損害賠償請求権は、消滅時効により消滅したものというべきである。

したがって、右第一審原告らの本訴請求についての第一審被告の消滅時効の抗弁は理由がある。

2  なお、右の第一審原告ら元従業員中、前記(1)ないし(5)の大串岩吉、大宮金重、田渕榮、松尾茂、石丸源市については、昭和三〇年代というかなり早い時期にけい特法による行政上の決定を受けており、また、当時の症状の程度がけい肺第一又は第二症度の比較的軽症の患者であったことから、同人らが当時において、じん肺(けい肺)罹患による損害賠償請求権を行使することは現実に期待することができなかった旨の反論が予想される。

しかしながら、けい特法二条1項三号は、「けい肺健康診断」として直接撮影による胸部全域のエックス線写真(以下単に「エックス線写真」という。)による検査、胸部に関する臨床検査及び粉じん作業についての職歴の調査によって行うものと定め、右諸検査の結果医師によりけい肺にかかっていると診断された労働者のうち一定のものについては、さらに同法三条6項により、心肺機能検査(以下「機能検査」という。)又は結核精密検査(以下「結核検査」という。)を行うとの規定があり、同法二条2項では、けい肺の症状をけい肺第一症度から同第四症度までの四段階に区分し、けい肺第一症度とはエックス線写真の像が第一型と認められる症状をいい、同第二症度の症状とは、エックス線写真の像が第二型又は第三型と認められ、かつ、けい肺による心肺機能の障害その他の症状が認められないものをいうと定め、さらに同条3項では、エックス線写真の像を四段階に区分し、両肺野に、明りょうな結節像でその大きさが粟粒大以上のものが部分的にあるものを第一型といい、第二型とは、両肺野に、明りょうな結節像でその大きさが粟粒大以上のものが全面的にあり、かつ、その分布が粗であるものをいうとの規定がある。そして、原審証人佐野辰雄の証言により認められるところによれば、同法がエックス線写真による検査の判定基準として設定した標準写真は第一型の像を正確に把握することのできるものであり、右のエックス線写真による検査と職歴調査がじん肺(けい肺)の所見の有無を判定するための診断項目であり、機能検査、結核精密検査及び臨床検査等は罹患しているじん肺(けい肺)の重さの程度・症状の進展の程度を詳しく知るためのものであって、じん肺(けい肺)診断の基礎はエックス線写真による検査であること、そしてこのような診断体系が右けい特法のもとで制度的に確立し、その後、昭和三五年の旧じん肺法へと承継されて現在に至っている、というのであるから、けい特法の右確立された診断体系のもとで、じん肺(けい肺)につき有所見の行政上の決定を受けた右第一審原告ら元従業員は、粉じんの吸入による肺の繊維増殖性変化等の疾病(同法二条1項第一号)という健康被害が現実に発現、顕在化し、かつ、じん肺に罹患したことが公的に認定され、客観的に確認されたものということができ、しかも、成立に争いのない乙第二二六号証の一、二(島正吾の供述記載)によれば、肺に生じた繊維増殖性変化の病変は治療不可能であり、この不可逆性はじん肺(けい肺)病変の特質であることが認められること、他方、右の不可逆性並びに後記の進行性を特質とするじん肺(けい肺)の病像に関する知見が、けい特法の制定、施行を契機として周知され、一般にも漸次認識されるに至ったことからすれば、右第一審原告ら元従業員らは、右行政上の決定を受けた時点において、本件損害賠償請求権を現実に行使することが可能であったというべきである。

もっとも、前記認定のとおり、右第一審原告ら元従業員のじん肺(けい肺)症状は、その後、例外なく進行し、より重い行政上の決定を受けているのであるが、このことは、後記(第九の一)認定のじん肺の進行性の特質や、けい特法に基づきなされた前記のじん肺(けい肺)罹患の認定の正確性を裏付けるものとはいえても、右の最初の行政上の決定がなされた時点において権利行使が可能であったことを妨げる事情とはなりえない(すなわち、じん肺(けい肺)罹患による健康被害の結果が現実に発現し、顕在化した以上、これによる損害について権利行使を現実に期待することができるので時効が進行するというべきであり、それ以降にじん肺(けい肺)症状が進行・重症化してより重い行政上の決定を受けたとしても、右事実は、消滅時効の起算点の関係では、単に予見可能な損害の範囲が量的に拡大したことを示すにすぎず、それ以上の意味を有するものではないから、右のより重い行政上の決定を受けたときをもって消滅時効の起算点と解すべき合理的な理由はない。)。

3  前記1に掲記の第一審原告ら元従業員以外の、その余の第一審原告ら元従業員について、右各人に最初の行政上の決定がなされた日は、当裁判所も、原審と同様、原判決別紙9個別主張・認定綴・第一綴中の右各人に関する「第三、当裁判所の認定」欄記載のとおり(但し、第一審原告橋本利夫の「症状の経過及び生活状況」に関する原判決ナ67表七行目の「原告の主張三1、2、3のとおり。」を「原告の主張三1、2(但し、『昭和四七年五月一八日、』を『昭和五五年五月一八日』と改める。)及び3のとおり。」と改める。)であると認定、判断するから、原判決理由中その説示を引用する(なお、第一審原告松山虎一について、最初に行政上の決定がなされた日は、同別紙9記載のとおり、昭和四六年一一月頃であると認める。)。

そうすると、右第一審原告ら元従業員各人についてなされた最初の行政上の決定の日は、右各人ないしその遺族原告らの本件各事件の訴え提起の日から遡って一〇年未満の日であることが明らかであるから、右第一審原告らの本件損害賠償請求権は消滅時効にはかからないものというべきである。

もっとも、右第一審原告ら元従業員のうち中薗繁(第一次の一八番の被訴訟承継人)について、前掲甲第一一一八号証の六(じん肺検診等結果証明書)によれば、既往症等の欄に、(6)けい肺その他のじん肺として「三九年(一症度)」との記載があるが、右証拠のほかには同人が昭和三九年頃旧じん肺法上の行政上の決定を受けたことを窺わせる証拠はなく(第一審原告中薗カズエ本人の供述中にも右事実を窺わせる供述部分はない。)、また、右の記載内容それ自体の信用性にも疑義がある(昭和三九年当時は既に旧じん肺法が施行されており、健康管理区分決定がなされていた筈であり、前示のようなけい特法上の症度区分決定がなされたとは到底考えられない。)ことからすれば、右証拠のみをもって、同人が昭和三九年頃じん肺罹患の行政上の決定を受けたと認定するには躊躇されるところである。

同真﨑光次(第一次の二二番の被訴訟承継人)について、同人が昭和三〇年頃けい特法による行政上の決定を受けたことは、これを認めるに足りる証拠はない。すなわち、同人は、昭和三〇年前後頃社内のけい肺検診の結果、会社からけい肺に罹患していると教えられたことがあったと主張し、前掲甲第一一二二号証の一(同人の供述録取書)及び原審における供述中には、昭和三〇年前後頃、大加勢の病院で二、三回けい肺の検査を受けたことがあり、第一回の検査後に勤労課の人から一症度と言われ、その後の検査のときに二症度と言われ、会社からその旨の通知書をもらったことがある旨の部分があるけれども、同人の右主張ないし供述するところは、第一審被告も原審においてはこれを否認していたところである(なお、第一審被告は当審において右主張を改めた。)のみならず、これを認めるに足りる客観的証拠はなく、加えて、前掲甲第一一二二号証の三(昭和四九年のじん肺管理四の行政上の決定の基礎とされた診断書)の既往症の欄は空白であって、けい肺罹患による症度決定がなされたことを窺わせる記述もない。以上によれば、同人の右主張及びこれに符合する右供述のみから直ちに昭和三〇年頃同人についてけい肺症度一ないし二の行政上の決定がなされたと認定することは躊躇せざるをえず、他に右事実を認めるに足りる的確な証拠はない。

同山手照三(第一次の四五番の被相続人)について、同人は、昭和二八年九月定年で第一審被告を退職した翌年に吉井町の健康診断でじん肺結核と診断されたと主張し、前掲甲第一一四六号証の四(じん肺検診等結果証明書)の既往症等の(6)けい肺その他のじん肺欄には、「昭和二九年(じん肺結核)」との記載があるので、これらによれば、同人は昭和二九年頃検診でじん肺結核と診断されたことが窺われるが、それ以上に、その頃じん肺(けい肺)罹患についての行政上の決定を受けたことまで認定することはできず、そして、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

同松田新一郎(第二次の七番の被訴訟継承人)について、前掲甲第一二〇七号証の二(じん肺検診等結果証明書)によれば、既往症等の欄に「昭和四三年頃(じん肺二型)」との記載があるので、昭和四三年頃じん肺の有所見の診断を受けたことが窺われないではないが、これ以上に旧じん肺法上の管理区分決定がなされたかどうかは右証拠のみでは必ずしも明らかではなく、そして、他に、同人が昭和四三年頃行政上の決定を受けた事実を窺わせる証拠のない本件においては、右証拠のみをもって直ちに右事実を認定することは躊躇せざるをえない。

同堀内亮次(第一次の二一番の被相続人)について、前掲甲第一一二一号証の四(じん肺検診等結果証明書)の既往症等の(6)けい肺その他のじん肺欄には「四三年頃(PR3)」との記載があるけれども、これによっても、診断者や管理区分決定がなされたかどうかについて明らかではないので、右証拠のみをもって、同人が昭和四三年頃じん肺管理区分の行政上の決定を受けたことを認定するのは躊躇されるところであり、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

同谷川春美(第一次の一三番の第一審原告)について、前掲甲第一一一三号証の四(じん肺検診等結果証明書)の既往症等の(6)けい肺その他のじん肺欄には「昭和三七年(四九才)詳細不明」の記載があるが、右証拠のみでは、同人について昭和三七年頃じん肺管理区分の行政上の決定がなされたことを証するに足りないことは明らかであり、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

これを要するに、前記1に掲記の第一審原告ら元従業員ないしその遺族原告ら以外の、その余の第一原告らの本訴請求に関する第一審被告の消滅時効の抗弁は、さらにその余の点について判断するまでもなく、理由がないというべきである。

四前記三1で認定した消滅時効にかかる第一審原告らの請求権に対し、第一審被告が消滅時効を援用したことが権利濫用に該当する旨の第一審原告らの主張(再抗弁)につき、当裁判所のこれに対する判断は、原審がその理由中において説示するところ(原判決エ7裏六行目から同エ8裏六行目まで)と同一であるから、原審の右説示を引用する。

第九損害

原判決別紙9個別主張・認定綴・第一綴所掲の第一審原告ら元従業員(但し、大串岩吉、大宮金重、髙富千松、田渕榮、玉置利夫、十時為生、増本京一、松尾茂、石丸源市、正法地秀夫を除く。)の三三名の第一審原告ら元従業員(以下「第一審原告ら元従業員」と記すときはこれらの者を指し、同別紙第二綴所掲の第一審原告ら元従業員及び前記の大串岩吉、大宮金重、髙富千松、田渕榮、玉置利夫、十時為生、増本京一、松尾茂、石丸源市、正法地秀夫ら三〇名の第一審原告ら元従業員を含まない。右三〇名の者に関する本件損害賠償請求権は消滅時効にかかるので、以下の判断を省く。)は、第一審被告の前記債務不履行によって、それぞれじん肺に罹患して損害を被ったものというべきであるから、第一審被告は右債務不履行によって生じた右第一審原告ら元従業員のじん肺罹患による損害を賠償すべき義務を負う。そこで、以下損害額について検討する。

一じん肺の病像

当裁判所も、次のとおり改めるほかは、じん肺の病理、じん肺の症状、じん肺による病変の特質、炭鉱夫のじん肺につき、原審とその事実の認定を同じくするから、原判決理由中その説示(原判決オ1表四行目から同オ9表一二行目まで)を引用する。

1  原判決オ3裏五、六行目の「検証の結果(スライドフィルム、肺の切片標本)によると、」を「原審及び当審における各検証(原審はスライドフィルム、肺の切片標本、当審は亡大宮金重の肺臓の切片標本)の結果、当審証人杉原甫の証言によると、」と改める。

2  原判決オ6裏四、五行目の「・・次のとおり理解することができることが認められる。」を「・・次のとおりであることが認められ、右認定を覆すに足りる的確な証拠はない。」と改める。

3  原判決オ7表一〇行目の「右のとおり、」から同一二行目の「あるとされている。」までを「なお、進展したじん肺に合併した肺結核は、完全治癒が困難で、再発傾向が強く、その治癒の判定が困難であるとされている。」と改める。

4  原判決オ7裏六行目の「甲第一四六ないし一五二号証(争いがない)」を「甲第一四六ないし一五二号証及び同第一九三号証(成立に争いがない)、同第一六六号証(原本の存在及び成立とも争いがない。)」と改める。

5  原判決オ8表一二行目の「前記検証の結果」の前に「原審における」を加え、原判決オ9表七行目の「証人佐野辰雄の証言及び前記検証の結果」を「甲第一九五、一九六号証(成立に争いがない)、原審証人佐野辰雄、当審証人杉原甫、同安田善治の各証言及び原審及び当審における前記各検証の結果」と改め、同一二行目の「・・発生する。」の次に改行して「なお、炭鉱夫のじん肺においては気腫性変化が特徴的である。」を加える。

二じん肺罹患に伴う症状及び損害

第一審原告ら元従業員のじん肺罹患に伴う症状及び損害については、本判決別紙13じん肺患者被害認定一覧表を追加するほかは、原審とその事実の認定を同じくするから、原判決理由中その説示(原判決別紙9個別主張・認定綴・第一綴「第三、当裁判所の認定」欄各記載のとおり。但し、大串岩吉、大宮金重、髙富千松、田渕榮、玉置利夫、十時為生、増本京一、松尾茂、石丸源市、正法地秀夫の各関係部分を除く。)を引用する。

三第一審原告らの本件請求について

当裁判所も、第一審原告ら元従業員の本件請求は、財産、生命、身体ないし人格その他一切の損害に共通する精神的損害に対する慰謝料の請求であり、また、本件事案のもとでは一律に請求することができるものと認定、判断するが、その理由は、原判決オ11表八、九行目の「・・財産上の損害については、」を「本訴請求のほかには、財産上の損害、精神的損害等名目のいかんを問わず、」と改めるほかは、原判決の説示するところ(原判決オ9裏四行目から同オ12表七行目まで)と同一であるから、これを引用する。

四損害賠償額の算定

1  当裁判所も、本件損害賠償額の算定に当たっては、旧じん肺法ないし改正じん肺法による行政上の管理区分決定を重要な要素として考慮しなければならないものと判断するが、その理由は、原判決の説示するところ(原判決オ12表九行目から同オ13表四行目まで)と同一であるから、これを引用する。

2(一)  当審において、第一審被告の申請にかかる第一審原告ら元従業員の一部に対して現在のじん肺の症状、内容、程度についての鑑定を行った。

すなわち、鑑定人梅田博道、同三浦肇、同馬場快彦の鑑定の結果及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

藤田学園保健衛生大学医学部教授梅田博道を団長とする三人の鑑定人団によって、死者三名を含む二六名(消滅時効にかかっている患者八名を含む。)の第一審原告ら元従業員を対象に、粉じん職歴、過去数年間にわたるじん肺定期報告書添付の診断書、カルテ及び胸部エックス線写真等を基礎資料として、胸部エックス線写真による検査及び肺機能検査を実施して鑑定が行われたが、右鑑定に当たっては、地方じん肺審査医ないし中央じん肺審査医の経験者或いはじん肺医療の専門家としていずれも信頼の厚い鑑定人が選ばれ、各鑑定人が各患者ごとの全資料、検査結果を点検したうえでの総合判断の結果を持ち寄り、これをさらに右三人による合議を経るという形での共同鑑定によって、次のような症度の分類がなされ、これに基づいて本判決別紙13じん肺患者被害認定一覧表中「症度」欄記載のとおり、各第一審原告ら元従業員じん肺患者のランク付けがなされた。

(1) 肺機能検査の所見

実施された検査結果を総合して、障害の程度を原則として次の三つに分類する。

① 高度障害

② 中等度障害

③ 軽度障害

(2) じん肺による障害の程度の総合判断

胸部エックス線写真像と肺機能検査の成績に基づく総合判断により、次の五つに分類する。

イ 高度障害

ロ 中等度障害

ハ 中等度に近い軽度障害

ニ 軽度障害

ホ 極めて軽度の障害

(3) 右障害の分類基準を例示すれば、次のとおりである。

高度障害

パーセント肺活量 四〇以下

一秒率      四〇以下

動脈血酸素分圧  六〇以下

中等度障害

パーセント肺活量 六〇ないし四〇

一秒率      五五ないし四〇

動脈血酸素分圧  七〇ないし六〇

軽度障害

パーセント肺活量 八〇ないし六〇

一秒率      七〇ないし五五

動脈血酸素分圧  八〇ないし七〇

なお、右鑑定対象者のうち、前記諸検査の必要がないと判断された真﨑光次、右検査を実施できなかった副島ケサ、そして死亡者の中薗繁、西岡萬太郎についてのじん肺による障害の程度は、いずれも右各人のじん肺健康診断等結果証明書及び労働者災害補償保険診断書(じん肺用)を資料とする総合判断に基づくものである。

(二)  ところで、右鑑定の結果は、本判決別紙13じん肺患者被害認定一覧表中「症度」欄記載のとおり、じん肺に罹患した第一審原告ら元従業員の一部の者について、その現症の軽症化を示していることが明らかである。そして、前示のとおり鑑定人の資質や鑑定の方法等からみて、右鑑定結果は、鑑定対象患者の現症に関する現時点における最も信頼性の高い所見であると評価することができる。しかし他方、右鑑定は、患者を問診し直接診断したものではなく、したがって、合併症(肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気管支拡張症、続発性気胸)の有無、程度についての判定には及んでいないなど、じん肺患者の現症の全貌を正確に把握するものとしてはおのずから限界があることもまた認めざるをえない。のみならず、右第一審原告ら元従業員はいずれも、過去に一定の症度区分ないし管理区分(以下単に「管理区分」という。)の決定を受け、これが現在すなわち本件口頭弁論終結時または死亡日まで継続しているのであり、前示じん肺の不可逆性、進行性という特徴及び本件損害賠償請求が過去の長期にわたるじん肺被害に対する慰謝料請求であるという事案の性質等に鑑みると、右鑑定結果の示す軽症化の一事をもって、直ちに右管理区分が本件損害賠償額算定の要素たりうる意味を失わせるものということはできない。

もっとも、右鑑定結果によれば、じん肺患者のうち、必ずしも「要療養」に至らず、或いは比較的軽症とされる管理区分二ないし管理区分三の該当者についてはともかく、「要療養」の、最も重篤とされる管理区分四該当者の中から、鑑定上、じん肺による障害の程度が「極めて軽度の障害」から「中等度に近い軽度障害」に至るまで、軽度の障害と判定された者が少なからず存在することが認められるところ、この事実は、少なくとも管理区分四該当者の賠償額を一律に算定することを妨げる減額事情として斟酌するのが相当である。すなわち、管理区分四該当者の中から鑑定上右の軽度障害と判定された者が存在するという事実は、じん肺症状の進行性という特徴や前示鑑定の限界という点を考慮しても、右鑑定結果の示すじん肺患者の現症が、証拠上現時点における最も信頼するに足りる医学的知見であることについて疑う余地がない以上、右の軽度障害と判定されたじん肺患者については、管理区分四の認定を受けた当時と対比し、賠償額の算定上看過することのできない程軽症化していることを窺わせるものであり、したがって、管理区分四に属する者についての賠償額を算定するに当たり、右事実を無視して現症が重篤な患者と同列に取り扱うのは均衡を失し相当でなく、これを右該当者(前記の軽度障害と判定された者)についての賠償額を他の管理区分四のじん肺患者に対するものより軽減させる事情として斟酌すべきものと考える。

なお、第一審原告ら元従業員のうち鑑定対象者以外のじん肺患者の現症が、それぞれ管理区分の行政上の決定を受けた当時と対比し、前同様に、賠償額算定上考慮しなければならない程軽快していることについては、これを認めるに足りる的確な証拠はない。

3 次に前記第七で認定のとおり、第一審被告会社の設立時である昭和一四年から同二〇年八月の終戦に至るまでの間、国家総動員体制下にあり、石炭業界も種々の統制を受けざるをえず、終戦直後から昭和二二、三年頃までは戦後の混乱期にあり、じん肺の知見を得またはこれに副う対策を実施することを含め、本件安全配慮義務の履行が必ずしも容易であったとはいえないという第一審被告側の事情や、前記第四で説示のとおり、石炭鉱業の社会的有用性並びに第一審被告の戦中、戦後に果たした社会的役割も本件賠償額の算定に当たり考慮せざるをえない。

さらに、弁論の全趣旨によると、第一審原告ら元従業員はいずれも管理区分の認定を受け、これに対応する労災法、厚生年金法上の給付を受けていることが認められる。

4  以上認定のすべての事情を総合斟酌して、第一審原告ら元従業員の本件じん肺罹患に対する慰謝料額を次のとおりの基準によって算定する。すなわち、本件口頭弁論終結時の管理区分を基本として、①死者を含む管理区分四該当者、②管理区分三該当者、③管理区分二該当者の三段階に一応分類するが、右①に該当するもののうち、鑑定により軽度障害(中等度に近い軽度障害及び極めて軽度の障害を含む。)と判定された者について、右①の下に一ランクを設け、(1)死者を含む管理区分四該当者(次の「B」該当者を除く。)を「A」、(2)同管理区分四該当者のうち鑑定により軽度障害(中等度に近い軽度障害及び極めて軽度の障害を含む)と判定された者を「B」、(3)管理区分三該当者を「C」、(4)管理区分二該当者を「D」として格付け勘案し(なお、第一審原告ら元従業員各人についての右認定ランクは、本判決別紙13じん肺患者被害認定一覧表中「症度」欄記載のとおり。)、結局慰謝料額は

「A」 死者を含む管理区分四該当者

一二〇〇万円

「B」 管理区分四該当者のうち鑑定により軽度障害(中等度に近い軽度障害及び極めて軽度の障害を含む)と判定された者  一〇〇〇万円

「C」 管理区分三該当者  六〇〇万円

「D」 管理区分二該当者  三〇〇万円

5 以上により、第一審原告ら元従業員各人の本件じん肺被害による慰謝料額は(死亡従業員の相続関係は後記第一〇のとおり。)、本判決別紙2第一審原告別認容金額一覧表「慰謝料」欄記載の金額をもって相当と認める。

五弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、第一審原告ら元従業員ないしその遺族原告らが、第一審原告ら訴訟代理人らに本件訴訟の提起・追行を委任したことが認められ、本件訴訟の難易度、審理の経過、認容額等諸般の事情を考慮すると、各認容金額の一割に相当する金額(但し、一〇〇〇円未満を切り捨てた額)が第一審被告の債務不履行と相当因果関係にある損害と認められる。

第一〇相続

第一審原告ら元従業員中、死亡した者についての相続関係が、原判決別紙6遺族原告相続関係一覧表及び本判決別紙6当審係属中死亡にかかる元従業員の遺族原告相続関係一覧表中の右死亡従業員関係部分に各記載のとおりであることは、前記第一の三で認定したところであるから、本判決別紙2第一審原告別認容金額一覧表中の遺族原告らは、同表認容金額欄記載の金額の損害賠償請求権をそれぞれ承継取得したことが認められる。

第一一他粉じん職歴等による減額について

他粉じん職歴等による減額についての判断は、原判決理由説示(原判決オ14裏四行目から同オ15裏七行目まで、但し、同オ14裏末行の「別紙10個別主張」を「別紙9個別主張」と改め、同オ15裏七行目の次に改行して「したがって、この点に関する第一審被告の主張は採用することができない。」を加える。)のとおりであるから、これを引用する。

第一二過失相殺について

当裁判所も、第一審被告の過失相殺の抗弁は理由がないものと認定、判断するもので、その理由は、原判決理由説示(原判決オ15裏九行目から同オ16裏九行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

第一三損益相殺について

第一審被告は損害につきその填補があったとして損益相殺を主張するので、以下この点について判断する。

一労災法及び厚生年金法による保険給付金

労災法による各労災補償は、いずれも労災事故により労働者の被った財産上の損害填補のためになされるものであって、精神上の損害填補の目的を包合するものではないから、第一審原告ら元従業員ないしその遺族原告がそれぞれ受領し、また、将来受給すべき同法による各給付金は、いずれも本訴請求にかかる慰謝料請求権とは性質を異にし、これには及ばないというべきである。したがって、これらについてその全部又は一部を慰謝料から控除することは許されないというべきである。また、厚生年金法による各給付金も同様の趣旨による生活保障を目的とするものと解するのが相当であり、既に受領し、また、将来受給すべき同法による各給付金を、前同様慰謝料から控除されるべきものではない。

したがって、この点に関する第一審被告の主張は採用することができない。

二閉山協定等による見舞金等の支給

第一審被告は、第一審原告ら元従業員のうち、岳野音松(第一次の三八番の被相続人)、浦田喜八郎(第一次の四番の第一審原告)、髙富千松(第一次の一一番の被相続人)、松尾愛義(第一次の四二番の被相続人)、西宮美好(第二次の一〇番の被相続人)、谷村仁太郎(第一次の四〇番の被相続人)が、在職中及び退職に際して、縮小・閉山協定及びけい肺協定又はじん肺協定に従い、けい肺・じん肺罹患に伴う特別措置を受け、右措置による手当等の支給を受けているので、これを本件損害額から控除すべきであると主張するが、前示(第八の三1)のとおり、右の者らに関する本件損害賠償請求権はいずれも消滅時効にかかるので、第一審被告の右主張については判断しない。

第一四結論

以上の次第であって、本判決別紙2第一審原告別認容金額一覧表記載の第一審原告らの第一審被告に対する本訴請求は、同表「認容金額」欄の「合計」欄記載の各金員及びこれに対する同表末尾の「遅延損害金起算日」記載の各日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、右第一審原告らのその余の請求及びその余の第一審原告らの請求は、いずれも理由がないからこれを棄却すべきこととなる。

よって、右と一部結論を異にする原判決部分を、第一審被告の控訴に基づき本判決主文一、二項のとおり取り消し、変更し、なお、第一審原告らの控訴はいずれも理由がないのでこれを棄却する。

原判決の仮執行に基づき、本判決別紙3記載の「氏名」欄の第一審原告らが、第一審被告から、本判決別紙5記載の「支払金額」欄の各金員を遅くとも昭和六〇年三月二六日までに受領していることが弁論の全趣旨により認められるところ、原判決中、右第一審原告らとの関係における第一審被告の敗訴部分が全部又は一部取消を免れないことは前記説示のとおりであり、右第一審原告らは第一審被告に対し、原判決の仮執行宣言に基づく執行により受領した金員である本判決別紙3記載の「金額」欄の金員、或いは、右第一審原告らのうち仮執行受領額が当審認容額とこれに対する遅延損害金起算日(第一次事件につき昭和五四年一一月三〇日、第二次事件につき昭和五五年八月一九日、第三次事件につき昭和五六年五月一九日、第四次事件につき昭和五七年一月一四日)から右受領日の昭和六〇年三月二六日までの年五分の遅延損害金との合計額を超える第一審原告らについてはその差額である同別紙「金額」欄記載の金員並びにこれらに対する昭和六〇年三月二六日から支払ずみまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべきものであるから、民訴法一九八条二項により右第一審原告らにその支払を命ずることとし、同別紙5のうち同別紙3の各第一審原告らを除くその余の第一審原告らについては、いずれも当該仮執行受領額が当審認容額及びこれに対する遅延損害金の合計額を上回らないので、同条項による申立ては理由がないものとしてこれを棄却する。

訴訟費用の負担につき、民訴法九五条、九六条、八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官高石博良 裁判官川本隆 裁判官松村雅司)

別紙2

第一審原告別認容金額一覧表(遅延損害金起算日は末尾に記載のとおり)

第一審原告番号

第一審原告氏名

認容金額

提訴次

番号

慰謝料 (円)

弁護士費用

合計 (円)

一ノ一

阿曽正文

六〇〇万〇〇〇〇

六〇万〇〇〇〇

六六〇万〇〇〇〇

〃 二

阿曽孝一

六〇〇万〇〇〇〇

六〇万〇〇〇〇

六六〇万〇〇〇〇

有川春幸

一〇〇〇万〇〇〇〇

一〇〇万〇〇〇〇

一一〇〇万〇〇〇〇

高祖六次

一二〇〇万〇〇〇〇

一二〇万〇〇〇〇

一三二〇万〇〇〇〇

一〇

副島ケサ

一〇〇〇万〇〇〇〇

一〇〇万〇〇〇〇

一一〇〇万〇〇〇〇

一二

竹永格

一二〇〇万〇〇〇〇

一二〇万〇〇〇〇

一三二〇万〇〇〇〇

一三

谷川春美

一二〇〇万〇〇〇〇

一二〇万〇〇〇〇

一三二〇万〇〇〇〇

一八ノ一

中薗カズエ

五〇〇万〇〇〇〇

五〇万〇〇〇〇

五五〇万〇〇〇〇

〃 二

中薗かをる

二五〇万〇〇〇〇

二五万〇〇〇〇

二七五万〇〇〇〇

〃 三

中薗優

二五〇万〇〇〇〇

二五万〇〇〇〇

二七五万〇〇〇〇

二〇

藤井利行

一〇〇〇万〇〇〇〇

一〇〇万〇〇〇〇

一一〇〇万〇〇〇〇

二一ノ一

堀内和恵

六〇〇万〇〇〇〇

六〇万〇〇〇〇

六六〇万〇〇〇〇

〃 二

浅田洋子

一二〇万〇〇〇〇

一二万〇〇〇〇

一三二万〇〇〇〇

〃 三

前田孝子

一二〇万〇〇〇〇

一二万〇〇〇〇

一三二万〇〇〇〇

〃 四

堀内克子

一二〇万〇〇〇〇

一二万〇〇〇〇

一三二万〇〇〇〇

〃 五

堀内明子

一二〇万〇〇〇〇

一二万〇〇〇〇

一三二万〇〇〇〇

〃 六

堀内省三

一二〇万〇〇〇〇

一二万〇〇〇〇

一三二万〇〇〇〇

二二ノ一

真﨑義光

四〇〇万〇〇〇〇

四〇万〇〇〇〇

四四〇万〇〇〇〇

〃 二

渡邉藤雄

四〇〇万〇〇〇〇

四〇万〇〇〇〇

四四〇万〇〇〇〇

〃 三

真﨑早人

四〇〇万〇〇〇〇

四〇万〇〇〇〇

四四〇万〇〇〇〇

二五

松尾ハツノ

一二〇〇万〇〇〇〇

一二〇万〇〇〇〇

一三二〇万〇〇〇〇

二六ノ一

松永ハツノ

四〇〇万〇〇〇〇

四〇万〇〇〇〇

四四〇万〇〇〇〇

〃 二

森洋子

二六六万六六六六

二六万六〇〇〇

二九三万二六六六

〃 三

宮木幸子

二六六万六六六六

二六万六〇〇〇

二九三万二六六六

〃 四

松永実

二六六万六六六六

二六万六〇〇〇

二九三万二六六六

二七ノ一

松永シゲ

六〇〇万〇〇〇〇

六〇万〇〇〇〇

六六〇万〇〇〇〇

〃 二

松永末雄

一〇〇万〇〇〇〇

一〇万〇〇〇〇

一一〇万〇〇〇〇

〃 三

松永繁利

一〇〇万〇〇〇〇

一〇万〇〇〇〇

一一〇万〇〇〇〇

〃 四

松永陸雄

一〇〇万〇〇〇〇

一〇万〇〇〇〇

一一〇万〇〇〇〇

〃 五

松永幸男

一〇〇万〇〇〇〇

一〇万〇〇〇〇

一一〇万〇〇〇〇

第一審原告番号

第一審原告氏名

認容金額

提訴次

番号

慰謝料 (円)

弁護士費用

合計 (円)

二七ノ六

松永静德

一〇〇万〇〇〇〇

一〇万〇〇〇〇

一一〇万〇〇〇〇

〃 七

松永一男

一〇〇万〇〇〇〇

一〇万〇〇〇〇

一一〇万〇〇〇〇

二八

松山虎一

一〇〇万万〇〇〇〇

一〇〇万〇〇〇〇

一一〇〇万〇〇〇〇

二九

山中サキ

一〇〇万万〇〇〇〇

一〇〇万〇〇〇〇

一一〇〇万〇〇〇〇

三〇

山中秀吉

一二〇〇万〇〇〇〇

一二〇万〇〇〇〇

一三二〇万〇〇〇〇

三一ノ一

山道美智加

一二〇〇万〇〇〇〇

一二〇万〇〇〇〇

一三二〇万〇〇〇〇

三二ノ一

吉福タツ

六〇〇万〇〇〇〇

六〇万〇〇〇〇

六六〇万〇〇〇〇

〃 二

吉福秀実

三〇〇万〇〇〇〇

三〇万〇〇〇〇

三三〇万〇〇〇〇

〃 三

吉福栄次

三〇〇万〇〇〇〇

三〇万〇〇〇〇

三三〇万〇〇〇〇

三四ノ一

浦ミセ

四〇〇万〇〇〇〇

四〇万〇〇〇〇

四四〇万〇〇〇〇

〃 二

浦美光

一七七万七七七七

一七万七〇〇〇

一九五万四七七七

〃 三

須田京子

一七七万七七七七

一七万七〇〇〇

一九五万四七七七

〃 四

浦幸生

一七七万七七七七

一七万七〇〇〇

一九五万四七七七

三七ノ一

竹永ヨシノ

四〇〇万〇〇〇〇

四〇万〇〇〇〇

四四〇万〇〇〇〇

〃 二

竹永寛

一六〇万〇〇〇〇

一六万〇〇〇〇

一七六万〇〇〇〇

〃 三

竹永憲之

一六〇万〇〇〇〇

一六万〇〇〇〇

一七六万〇〇〇〇

〃 四

竹永實

一六〇万〇〇〇〇

一六万〇〇〇〇

一七六万〇〇〇〇

〃 五

岩﨑靖子

一六〇万〇〇〇〇

一六万〇〇〇〇

一七六万〇〇〇〇

〃 六

竹永隆

一六〇万〇〇〇〇

一六万〇〇〇〇

一七六万〇〇〇〇

四五ノ一

山手ヨシ子

四〇〇万〇〇〇〇

四〇万〇〇〇〇

四四〇万〇〇〇〇

〃 二

嶋岡八重子

八〇〇万〇〇〇〇

八〇万〇〇〇〇

八八〇万〇〇〇〇

柿木秀雄

一〇〇万万〇〇〇〇

一〇〇万〇〇〇〇

一一〇〇万〇〇〇〇

三ノ一

久世シズ子

三〇〇万〇〇〇〇

三〇万〇〇〇〇

三三〇万〇〇〇〇

三ノ二

久世孝男

一五〇万〇〇〇〇

一五万〇〇〇〇

一六五万〇〇〇〇

〃 三

吉田郁子

一五〇万〇〇〇〇

一五万〇〇〇〇

一六五万〇〇〇〇

畑原松治

三〇〇万〇〇〇〇

三〇万〇〇〇〇

三三〇万〇〇〇〇

七ノ一

松田フサ子

六〇〇万〇〇〇〇

六〇万〇〇〇〇

六六〇万〇〇〇〇

〃 二

大石敏子

六〇〇万〇〇〇〇

六〇万〇〇〇〇

六六〇万〇〇〇〇

山田政次

一〇〇万万〇〇〇〇

一〇〇万〇〇〇〇

一一〇〇万〇〇〇〇

伊藤敏明

一〇〇万万〇〇〇〇

一〇〇万〇〇〇〇

一一〇〇万〇〇〇〇

角藤巳

一二〇〇万〇〇〇〇

一二〇万〇〇〇〇

一三二〇万〇〇〇〇

第一審原告番号

第一審原告氏名

認容金額

提訴次

番号

慰謝料 (円)

弁護士費用

合計 (円)

橋本利夫

三〇〇万〇〇〇〇

三〇万〇〇〇〇

三三〇万〇〇〇〇

山口進

六〇〇万〇〇〇〇

六〇万〇〇〇〇

六六〇万〇〇〇〇

若林千代人

一二〇〇万〇〇〇〇

一二〇万〇〇〇〇

一三二〇万〇〇〇〇

井手留雄

一〇〇〇万〇〇〇〇

一〇〇万〇〇〇〇

一一〇〇万〇〇〇〇

二ノ一

西岡シズ

五〇〇万〇〇〇〇

五〇万〇〇〇〇

五五〇万〇〇〇〇

〃 二

西岡正幸

一二五万〇〇〇〇

一二万五〇〇〇

一三五万五〇〇〇

〃 三

野田満恵

一二五万〇〇〇〇

一二万五〇〇〇

一三七万五〇〇〇

〃 四

神田友恵

一二五万〇〇〇〇

一二万五〇〇〇

一三七万五〇〇〇

二ノ五

西岡睦雄

一二五万〇〇〇〇

一二万五〇〇〇

一三七万五〇〇〇

遅延損害金起算日

第一次事件

昭和五四年一一月三〇日

第二次事件

昭和五五年 八月一九日

第三次事件

昭和五六年 五月一九日

第四次事件

昭和五七年 一月一四日

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